敏腕社長に拾われました。
「悪い。もう耐えられなくなった」
「耐えられなく?」
何に?
虎之助の言っていることがわからなくて首を傾げると、すっと伸びてきた腕に抱きしめられる。
「詩織さんのところに行ってくれて、ありがとうな」
「ありがとうなって、怒ってたんじゃないの?」
今回のことで怒られることはあっても、万が一にも礼を言われることなんてないと思っていたのに……。
虎之助の言葉と胸から規則正しく聴こえてくる心音が合い重なって、気持ちが落ち着き始める。
「まあ最初はな、確かに怒ってた。朱音さんから連絡受けて、智乃のやつ何勝手なことしてるんだって」
「やっぱり……」
「でもよく考えてみればさ、智乃は一度諦めようとした恋を取り戻しに行ったわけでしょ? しかも相手は詩織さんだよ。強敵なのに、よく頑張ったよね」
「それって褒めてるの? 呆れてるの?」
そんなことは聞かなくたって、虎之助が私の身体をギュッと抱きしめ直した時点でわかってる。でもなんとなく照れくさくて、素直になれない自分がいた。
「褒めてる。だから耐えられなくなって、こんなところでキスしちゃったわけだし」
「あぁ……」
やっぱり、そういうことだよね。
照れくささが更に増して、今抱きしめられていることもこっ恥ずかしくなってきた。