敏腕社長に拾われました。
「ねえ虎之助、そろそろ離してくれない?」
虎之助から離れようと身体をモゾモゾ動かしてみても、虎之助の腕の力は強まるばかり。それどころか顔を私の耳元に寄せて、吐息混じりに囁いた。
「俺、明日誕生日なんだけど。しかも三十歳の」
「誕生日?」
あぁなんか前に年齢を聞いたとき、今のアメリカ合衆国の大統領と同じ誕生日とか言ってたっけ。
「まさかとは思うけど、忘れてたとか言わないよな?」
「いやいや、そんな……」
すっかり忘れていたなんて、口が裂けても言えません。
ここは上手くごまかさなくちゃと、虎之助と目を合わせとびっきりの笑顔を向ける。
「じゃあふたりでお祝いしないとね」
「智乃、プレゼント欲しいんだけど」
「い、いいよ。何が欲しい? なんでも言って」
虎之助のことをお祝いしたい気持ちは本当。だから何でも買ってあげたいけれど、なにせ私はまだ仕事を始めてばかりで貯金もほとんどない。だから虎之助の口からとてつもなく高級品の名前が飛び出したらどうしようと、内心はドキドキ。
でもそんな私の考えは、杞憂に終わってしまう。