敏腕社長に拾われました。

恋人の部屋に泊まって、お風呂あがりに彼のTシャツを着る──

これ。恋に恋する乙女なら、誰もが憧れるシチュエーション。

でもいかんせん、私と虎之助は恋人同士でもなんでもない。しかも昨日知り合ったばかりだから、微妙な気分なわけで。

「でもこのTシャツ、いい匂いがするんだよねぇ」

その匂いを噛みしめるように、自分の体を抱きしめる。

……って、私は変態か。

ブルブルッと頭を振って煩悩を振り払うと、ベッドから下りて大きな窓のカーテンを開ける。

上を見れば雲ひとつない青空が広がっていて、眼下を覗けば今日一日が始まった街が動き始めていた。

「勝ち組になったみたい」

そんな勘違いをしてしまいそうな景色に、しばし心を奪われる。

しかしスマホが二度目の音を鳴らすと、私は現実へと呼び戻された。

「あ、のんびりしてる暇なかったんだ」

急いで服を着替えると、静かにリビングへと向かう。



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