敏腕社長に拾われました。
●虎之助との縁は異なもの味なもの
「なんですか、ここは?」
今私が立っている目の前には、有名なブランドショップ。そこの店員さんが、ドアを開けてにこやかな笑顔でお出迎えの最中だ。
「智乃の仕事用のスーツを買いに来たんだけど? 早く何着か選んで」
「早くって……」
いきなりこんな店に連れられて『何着か選べ』と言われても、『はい、そうですか』とは言いにくい。しかも誰もが知ってる高級なショップ。いくら普段ブランド物を持ち歩かない私でも、ここにあるものどれもこれもが高額なのを知っている。
「虎之助、ちょっと……」
虎之助の袖を引っ張って、小さな声で耳打ちをする。
「何?」
「こんな高いお店のじゃなくていいよ。働いてお給料もらっても、きっと払えないし」
「誰が自分で買えって言った? これは俺からのプレゼント。俺の秘書として働いてもらうんだし、身だしなみはちゃんと整えておかないとね」
虎之助は私の肩をポンッと叩くと、先に店の中へと入っていった。