敏腕社長に拾われました。

そんな一社員の私のことを、どうして虎之助が知っているのか。

「まあそのことについては、おいおい話すとして」

「は? おいおいって……」

私はまだ全然不信感を払拭できてないというのに、虎之助は虎之助に戻ってしまっていた。

なんとなく、ううん、全然納得いかないけれど。会社に到着しちゃったし、この話の続きは夜にじっくりするとして。

虎之助は車から降り、本社棟に向って歩き出している。私も鞄を掴むと、急いで虎之助の後を追った。


虎之助の会社は『アメリア製菓本舗』といって、和洋菓子を中心に製造販売をしている会社。販売は『アメリア』の店名で全国に展開していて、誰も知っている有名和洋菓子店だ。

元々は前社長が和菓子を中心に販売していた店を、今の社長がヤリ手で、店舗の販売規模や新しい商品を展開していったと聞いていたけれど……。

「まさか、虎之助だったとは……」

前を歩く虎之助の後ろ姿に、ぼそっと呟く。

兎にも角にも、虎之助と私は会うべくしてあった……ということなんだろうか。

う~ん。男と女の縁というものは、とても奥深くて不思議。



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