敏腕社長に拾われました。

到着したのは五階。

本社棟には何度か来たことがあるけれど、このフロアに足を踏み入れたのは初めて。

まだ新しい建物だからどこも綺麗だけど、このフロアはひときわ明るく素敵。工場棟が見る窓は大きくて見晴らしも良いし、廊下も広く取ってあるからか開放的。

その真ん中を颯爽とあるく虎之助を見て『ちょっとカッコいいじゃない』と思ったのは、この場所が私に錯覚を起こさせているに違いない。

会議室に応接室、もろもろの上役の部屋などを通り過ぎ、“秘書室”と書いてあるプレートが貼ってあるドアの前で足を止めると、虎之助が私の方に振り向いた。

「ここがキミの働くところ。正式の入社日はこれから決めるけど、まずは紹介する」

虎之助はそう言うと、コンコンとノックもせずにいきなりドアを開ける。

「おはよー。みんな、今日も元気?」

そのノリは一階で見たものと同じで。虎之助の人格を疑う。

でもいつもこんな感じなのか、秘書室にいる面々はさっと立ち上がると「おはようございます」とクールに挨拶を交わした。

そして虎之助のそばに来たのは、ゴールドのメガネがいかにも“秘書”と言わんばかりの男性。歳は虎之助よりも少し上に見えるけど。細身の体にスーツが似合っていて、手にタブレットを持つ姿はデキる男を醸し出している。



< 42 / 248 >

この作品をシェア

pagetop