敏腕社長に拾われました。
「朱音さん、智乃は素人だからお手柔らかにね」
虎之助は、またポンポンと頭を叩く。
素人で悪かったわね。それにその頭ポンポン、やめてもらいたいんですけど。どうにも子供扱いされているようで、気に入らない。
でも虎之助のその仕草が宮口さんには面白い光景に見えたのか、さっと立ち上がると笑顔を見せる。
「なんだか社長と早瀬さんを見ていると、お父さんと娘って感じですね」
「そうかなぁ。朱音さん、俺ってそんなおじさんに見える」
「いえいえ、そういうことではありません。男と女の関係には、“全く”見えないということです。見ていて微笑ましいですわ」
『全く』の部分を強調して言うなんて。他人が聞けば、なんてことのない会話なんだろうけれど。これって地味に私を攻撃してるよね?
だけどさっきから言ってるように私と虎之助の間には、愛だの恋だのは存在しない。あるのは、ただひとつ。
お金が貯まるまでの同居人──
という関係だけ。
でもこのことはだけは、ここの人たちに絶対に知られたくない。
だってこれ以上波風立てず、穏やかに過ごしたいじゃない。
永田さんと宮口さんだって、きっと根っからの悪い人じゃないはず。そう信じたい。
だっだらここは、馬鹿と鋏は使いよう!……もとい。
秘書とハサミは使いよう。彼らと上手に接して、秘書室での限られた時間を有意義に使わなくちゃ。
そう思えば、これからのここでの生活も楽しくなってくる?
少しだけヤル気が起こってくると、背筋をピント伸ばした。