敏腕社長に拾われました。
「さて、俺はそろそろ出かけるけど、智乃はどうする? 入社は来週だし、今日のところは家まで送って行こうか?」
やったぁ、ラッキー!
今日はずっとここにいるんだろうか……なんて思っていたから、虎之助が神様に見える。
「はい、よろしくお願いします」
カバンを持って立ち上がり秘書室の面々に挨拶をしようとすると、いつの間に付けたのか、真っ赤なフレームが印象的なメガネを掛けた宮口さんが、待ってましたと言わんばかりに立ち上がり虎之助の元へ歩み寄る。
「社長。今日は秘書室も忙しくありませんし、早瀬さんには“是非”、ここでの仕事がどんなものか見学していただきたいと思いますが。いかがでしょう?」
なんですか、そのとんでもない提案は!
いかがでしょう?
そんな丁寧な言葉を使ったって宮口さん、あなたの魂胆は見え見えなんだから!
どうぜ、私を虎之助の車に乗せたくないんでしょ? でももう何度も乗ってるんだから、今更だと思いますけど?
そう喉まで出かかっているのに、言えないもどかしさ……。
こうなったらしょうがない。虎之助に無言のアピール作戦だ!と、虎之助と一緒に帰りたいオーラを体中から出したというのに。
「それ、いいかもしれないね。じゃあ朱音さん、智乃のことよろしくね。帰りはタクシーチケット渡してあげて」
私のアピールも虚しく、泡と消えてしまった。
嘘でしょ? 誰か嘘だと言ってーっ!!
がっくりと項垂れた私の肩を、長坂胡桃がトントンと叩いた。