敏腕社長に拾われました。
○秘書室は一日にして成らず
「では私は少し出てきます。戻るまでに時間は掛かりませんが、何かあったらこちらに連絡を」
永田さんが、左手に持っているスマホを指した。そのスマート仕草に、私は不覚にも、少しばかり目を奪われてしまう。
やっぱりデキる男は、何をやってもカッコいいわけね。
「はい、了解しました。早瀬さんのことは、わたくしにお任せ下さい」
宮口さんが自信ありげに言うと、ひとつ頷いた永田さんは私のことをチラッと見てから秘書室を出て行った。
こ、怖い……。
宮口さんといい永田さんといい、そんな冷たい目を向けなくてもいいのに。なにか私が悪いことでもした? 仮に何かをしたとしても、そんな背筋も凍るような視線はご遠慮願いたい。
宮口さんが私に対する態度は、きっと虎之助が絡んでのことだろうけれど。でも永田さんは……。
う~ん、よく分からない。
「早瀬さん」
空いているデスクの横に立った宮口さんが、私を手招きして呼ぶ。
「はい」
「このデスクを、あなたに使ってもらおうと思います。必要な物は来週までに、こちらで揃えておきますので」
宮口さんはメガネのフレームをクイッと上げ、手にしていた会社のパンフレットらしきものを私に手渡した。