敏腕社長に拾われました。

ところで、虎之助はどこに行ったんだろう。あれでも一応社長だし、仕事は山のようにあるんだろうけれど。

私がここに何度も来たことがあったって、取引会社の一社員としてここに出入りしていた時とはわけが違う。何も知らない子羊ちゃんを、こんな猛獣だらけの檻の中にひとり置いて行くなんてヒドい!

『智乃のどこが子羊ちゃんなの?』と、どこからともなく虎之助の声が聞こえてきたのは放っといて……。

不安80、期待20パーセント。

このパーセンテージが覆られる日が、果たしてやってくるのだろうか。

なんて、ネガティブなことを考えるのはやめ。これは自分で決めたこと、もう後戻りはできないんだから前進あるのみ!

デザイン性のいいチェアに座り、この会社のことをもっと知るためにもう一度パンフレットに目を通し始めた。すると秘書室の電話が鳴り響き、宮口さんが自分のデスクの受話器を取った。

「はい、秘書室宮口でございます。あ、永田さん、お疲れ様です。……はい、今からですか? 分かりました」

何かあったのだろうか、宮口さんは少し不服そうな顔を見せて受話器を置く。そして少しだけ間を置いてから、その顔を私に向けた。

宮口さんの鬼のような形相に、顔が引きつる。



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