敏腕社長に拾われました。
「み、宮口さん、ど、どうかしましたか?」
恐怖でろれつが回らない。
「早瀬さん。永田さんが、すぐに正面玄関に来るように……ですって」
「私、ですか?」
「あなた以外に、誰がいるっていうの! さっさと行きなさい!」
「は、はいっ!!」
なんで私は、宮口さんに怒鳴られているの? 全然、意味わかんないんですけど。
でも今ここでその“意味”を聞く勇気は、私にはこれっぽっちもない。
急いで立ち上がり鞄を持つと、宮口さんと長坂さんふたりに頭を下げる。
「今日は、ありがとうございました。来週から、またよろしく願い致します」
お
決まりの挨拶をすると、甲高い長坂胡桃の声。
「智乃ちゃん、またね~」
智乃ちゃん!? 長坂胡桃の方が年下なのに、もう智乃ちゃんですか。でもなんか憎めないというか、嫌な感じはしないかな。まあこれはこれでオッケーということで。
問題はもうひとり。宮口さんの反応のほうが気になる。
恐る恐る顔を上げると……あれ? 意外にも普通の顔じゃない。なんだ、怒ってたわけじゃないの? 私の気にしすぎ?
ちょっと胸を撫で下ろし緊張がほぐれると、自然と顔に笑みが戻る。
でもそんなうまい話、あるはずもなくて。私の笑顔とは反対に、宮口さんの表情がみるみるうちに変わっていく。
「ねえ早瀬さん。そんなことろでゆっくりしてないで、早く永田さんのところへ行ってちょうだい。あなたがのんびりしてると、怒られるのは私なの。わかった?」
「わかり、ました……」
もう一度小さく頭を下げると、慌てて秘書室を飛び出す。そして、一目散にエレベーターホールへと向った。