敏腕社長に拾われました。
「そんなに怖がらなくても大丈夫。今はなにもしない」
「今は?」
「そう、今はね。俺はただ、社長に付く悪い虫を追い払いたいだけなの」
え? なにそれ、どういうこと? それって永田さん……。
「もしかして、虎之助のことが好き……とか?」
「はあっ!?」
いやいや今の時代、男の人が男の人を好きになるって、珍しい話じゃないからね。誰が誰を好きなったって、それはそれで自由。好きになったら気持ちを止められないのは、相手が誰だろうと同じだ。
「永田さん。私と虎之助は男女の仲じゃないですから、心配しないで下さい」
そんなことを心配してるんだったら、お門違いも甚だしい。虎之助が私のことを永田さんになんて説明したかは分からないけれど、このことだけはちゃんと言っておかなくちゃ。
少しだけ安心して気が緩んだのか、ホッと息をつく。
「馬鹿か……」
でもホッとしたのは私だけだったみたいで、運転席からは地獄の閻魔大王みたいな声が聞こえてきた。
「永田さん?」
私の呼び声にも真っ直ぐを向いたままの永田さんが、車をゆっくり路肩に停める。そして私の方を見ると、胸元を掴み引き寄せた。
永田さんの顔と一気に近づき、あと少しで唇が重なりそうな距離に、心拍数が急激に上昇する。