敏腕社長に拾われました。
運転を再開した永田さんに、今度は私が冷ややかな目を送る。
「最低」
「何?」
「永田さんって、最低!って言ったんです。最低に最低って言って、何か問題でも?」
「お前……」
わーいわーい、永田さんのハンドルを持つ手が震えてる。これはかなり怒っていると見た。
でも残念なことに、今は運転中。私の方をちらっとだけ見ると、永田さんは悔しそうな顔を見せた。
「お前、後で覚えておけよ。今言ったこと、後悔させてやる」
「私バカなので、覚えてられるかどうか。すみません」
頭に手を置き、ペコッと頭を下げる。
永田さんは私の態度に、わなわなと体まで震わせている。でも目的地に着いたのか駐車場に車を停めると、大きく息を吐いてから私をジロッと睨みつけた。
「着いた。いいか、車の中でのことを社長に言っても無駄だ。まあ何を言ったところで、信用されないだろうけどな」
永田さんはそれだけ言って、さっさと車から降りてしまう。
その自信、どこから来るんだろう。社長と秘書としての付き合いが長いから? それともやっぱり、ふたりはデキてるとか?
……考えたくないけれど。
兎にも角にも秘書室の面々は、一筋縄ではいかない人ばかり。あの人達を完全攻略するのには、時間が掛かりそうだ。
そんなことを考えながら私も車から降りると、永田さんの背中を追った。