敏腕社長に拾われました。
色気より食い気。せっかくこんな素敵な料亭で食事ができるんだから、出されたものは全部残さず食べたいのに。なんで取引会社の人が一緒の時に、私を誘うかなぁ。
しかもだよ、私はまだ『アメリア製菓本舗』の社員じゃない。虎之助の同居人ってだけで、そんな大事な場所に同席させるってどういうこと?
社長の虎に取引会社の常務。そんな偉い人たちと一緒にランチなんて、大丈夫なんだろうか。
憂鬱だよ……。
そんなことを考えていても、時間が止まるわけでもなく。女将さんの案内でたどり着いたのは『桔梗の間』と書かれた個室。
緊張で手が震える。
「失礼いたします。お連れの方がお見えになりました」
女将さんが声をかけると、中から「どうぞ」と虎之助の声。なぜだかわからないけれど、虎之助の声に緊張が少し緩む。
昨日からよく聞いてる声だからね。身内感覚ってやつだ、きっと。
強ばっていた顔に笑みが戻ったのを感じると、大きく息を吸い込んでから背筋をピント伸ばした。