敏腕社長に拾われました。
「永田です。失礼します」
永田さんが挨拶をして、個室の中に入っていく。
「失礼いたします」
私もそう言って永田さんの後に続くと、部屋の中で和やかに談笑をしている虎之助が目に入る。
「やっと来たか。待ちくたびれて、お腹ペコペコだよ。ねえ、高城常務」
「いえいえ、永田さんもお忙しいでしょうに……。あれ、見ない顔がひとりいるね」
高城常務とよばれた男性は永田さんの後ろに立つ私を見つけると、顔の表情を変えた。
和やかなムードの中に、ほんの少しの違和感。私という存在が、この部屋の空気を微妙に変化させる。
でもそれは嫌な感じのものではなくて、興味とか感心といったたぐいのもので。高城常務と目が合うと、丁寧に頭を下げた。
「初めまして」
顔を上げ自己紹介をしようとしたところで、虎之助が口を開く。
「早瀬、こちらに」
え? 早瀬? ずっと“智乃”呼ばわりだったのに、ここにきて苗字で呼ぶなんて。
虎之助、やればできるじゃない!
社長に向って上から目線の言葉を、心の中で投げかけた。
でももう一方で、虎之助が本当に社長なんだと知らされる。
私のことを“智乃”と呼ぶ時と、明らかに違う声と態度。それは永田さん以上にデキる男を感じさせ、会社のトップという責任感を背負った男の顔がそこにあった。