敏腕社長に拾われました。
* * *
あの野郎……。
永田さんがいなくなってからもなお、腹の中の苛立ちは治まらない。
なにが『私の代わりに、早瀬が面白い話をしてくれると思いますので』よ。勝手なこと言ってくれちゃって。なんの取り柄もない私が、社長と高城常務の前で面白い話なんてできるはずないでしょ!
テーブルの上には食前酒に先付、八寸が置かれている。素敵な器に盛られた料理はどれも美味しいそうで、見た目だけでも満足感を与えてくれていた。
なのに私は、まだ手を付けられずにいる。
「早瀬、どうした? 食べないのか?」
虎之助が心配そうに、私の顔を覗む。
「え? あ……すみません。こんな贅沢な料理初めてで、何から口にしていいのか迷ってました」
アハハと笑ってごまかす。
ここに来るまでの車の中でのことを、虎之助に話してしまえば少しは気持ちも落ち着くのかしれないけれど。何しろ今は取引会社の常務さんとの会食中。そこに私情を持ち込むわけにもいかないよね。
「かしこまらなくても、もっと気楽に。せっかく虎之助くんが用意してくれた食事だ、美味しくいただこうじゃないか」
高城常務にまで気を使わせてしまい、申し訳ない気分になる。