敏腕社長に拾われました。
○触らぬ虎に祟りなし

「今日は本当に楽しかった。また会える日を楽しみにしているよ」

高城常務はそう言うと、ハイヤーに乗り込み帰っていった。

「智乃、今日は急に呼んで悪かった。でもお前がいたら、話し合いがうまくいくと思ったんだ」

虎之助は私の頭に手を乗せると、子供をあやすようにポンポンと叩く。

「なんですか、それ?」

上目遣いに虎之助を見ると、「さあ?」とはぐらかされてしまった。

また普段の虎之助に早変わり。

社長としての虎之助と今の虎之助。どっちも虎之助には変わりないけれど、こうも違うと調子が狂う。

「さてと、俺たちも帰るか。女将、またよろしくね」

「はい。いつでもお待ちしております」

女将さんが頭を下げると私もお辞儀をして、先に歩き出した虎之助を追いかけた。

「虎之助。どこにいくの?」

「駐車場。俺、ハイヤーとかお抱え運転手とか嫌いなんだよね。やっぱ車は、自分で運転でしょ」

虎之助はスラックスのポケットに手を突っ込むと、前を向いたまま答える。



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