敏腕社長に拾われました。
虎之助は車のエンジンを掛けると、あっという間に駐車場を出る。
梅雨の晴れ間の今日は暑いくらいで、少し開けた窓から入ってくる風が気持ちいい。
「俺、明日明後日と出張だから」
「え?」
街の景色を眺めていた目を、虎之助に向ける。
「日曜の夜には帰ってくるけど、智乃は明日と明後日どうする?」
いきなり出張と告げられて『どうする?』って聞かれてもね。この場合はもちろん、ひとりでお留守番でしょ。
でも来週から仕事なら、いるものもあったりするわけで。一昨日まで浩輔と住んでいたアパートに、荷物を取りに行く? でも私、あそこを追い出されたんだよね。今さら行って浩輔が『はい、どうぞ』って入れてくれるだろうか。
いや、そんなことより。私が追い出された理由が、もし女だったとしたら。新しい彼女とかいたら、修羅場になっちゃうんじゃない?
それでも今は一文無しだし、これ以上虎之助に迷惑はかけられない。
「明日は、前のアパートに荷物を取りに行ってくるよ」
「前のって、彼氏に追い出されたアパート?」
「うん、そうだけど」
虎之助はそ言うと、顔色を変えた。
どうして虎之助が怪訝な顔をするわけ?
横顔しか見えないのに、その色はますます濃くなっていく。