敏腕社長に拾われました。
車はマンションの方には向かわず、郊外へと向かっていた。

普通なら「どこに行くの?」と聞きたいところだけど、いかんせん今はそんな状況じゃなくて。あたりを気にしながら窓の外を見ていると、少し先に大型複合施設らしき建物が視界に入ってきた

もしかして、あそこに行くとか? 明日から出張だって言ってたし、買い物でもするのかもしれない。

そしてあれから黙ったままの虎之助は大通りを左折すると、私の予想通り複合施設の立体駐車場に入っていった。

平日なのに思ったより混んでいる駐車場に空いているところを見つけると、虎之助は大きな車をいとも簡単にバックで駐車させる。

実は私、男性がバックで車を駐車するときの仕草に弱かったりする。それは相手が虎之助でも当てはまったらしく、つい見惚れてしまった。

「なに人のこと見てんの、変態」

「へ、変態!? 別に虎之助のことなんて見てないし」

慌てて目をそらすと、速まる鼓動を必至に抑える。

あれだけジッと見つめていて『虎之助のことなんて見てない』なんて、自分のことながら言い訳が下手すぎる。

だからといって、女性に対して『変態』は言いすぎなんじゃない? さすがの私でもちょっと落ち込むよ。

でも虎之助はそんなこと気にもせず、車から降りると助手席のドアを開けた。

「行くぞ」

「え、ちょ、ちょっと……」

虎之助はまだ何も準備していない私に構うことなく腕を掴むと、助手席から引っ張りだした。



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