敏腕社長に拾われました。

虎之助っていつも勝手で、私を車に乗せたり降ろしたり。またキスされたりしないよね?

腕はまだ掴まれたまま、少し警戒しながら虎之助についていく。

「さしあたり、いるものって何?」

建物の中に入るといきなり立ち止まり、虎之助が振り向いた。

さしあたりいるもの?

なにせ浩輔がボストンバッグに入れてくれたのは、二泊三日の旅行ができるくらいの衣類一式だけ。しばらく虎之助のところにお世話になって仕事も始めるとなるなら、下着とかパジャマとか日用品とかそれなりの物がいるわけで。

でもそれも浩輔のところへ取りに行けば万事解決、買うことなんてない。

「いるものはいろいろあるけど、やっぱり浩輔のところに取りに行ってくる」

わざわざ新しいものは買わなくてもいい。どうせ虎之助のことだから『俺が買ってやる』って言うんだろうけれど、そんなことでわざわざ虎之助のお金を使わせる必要もない。

でも虎之助は眉をひそめると面白くないとでも言いたそうな顔をして、チッと舌打ちをした。

「浩輔ね……。だからそれは、今度俺も一緒に行くって言っただろ。ちゃんと聞いてたのか?」

「でも……」

「でもじゃない。ほら、さっさと買って家に戻るぞ。俺も出張の支度したいからな」

あ、そうだった。

仕事だと言われてしまうと、もう何も言えなくなってしまう。

私の事で虎之助に迷惑をかけるわけにはいかない。しかも仕事となればなおさらだ。



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