敏腕社長に拾われました。

「じゃあ、少しだけ」

諦めてそう答えると、虎之助はやっと笑顔を見せた。そして上着の内ポケットから財布を取り出すと、その中からカードを一枚抜き取る。

「少しなんて言わず、好きなだけ買ってこい。ただし、一時間以内にな」

渡されたのは、今までお目にかかったことのない黒いカード。

もしやこれって、選ばれし者だけが持てる“ブラックカード”じゃ、あ、あ、ありませんか~!? こんなスゴいカード渡されても、私にどうしろと?

カードを持つ手がプルプル震え、その場に立ち尽くしてしまう。

「虎之助、これ返す。一万円、持ってない?」

「一万円? ない。普段から現金は持ち歩かない」

はぁ、そうですか……。聞いた私がバカだった。

今の時代、確かにどこでもカードは使えるけれど。まさか本当に現金を持たない人がいるなんて。かなりビックリ。

じゃあやっぱり、このカードでお支払い……ってこと、だよね。買い物って楽しいはずなのに、なんだか気が重たくなってきた。

でも一時間以内って言われたし、もたもたしている時間はないわけで。

こうなったら自棄っぱちだとブラックカードを握り締め、とりあえず頭に浮かんだものだけを買うことに決めた。



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