敏腕社長に拾われました。


マンションに戻ると「ちょっと荷物置いてくるね」と言って、虎之助に与えられた10畳のベッドルームへと逃げこむ。

『喉乾いたから、コーヒー頼む』

廊下から聞こえてくる虎之助の声を軽く無視すると、そのままベッドに飛び込んだ。

「真面目に勘弁してよ……」

疲れた体を横たえると、自然に漏れた呟きならぬ愚痴。

『好きなだけ買ってこい』なんて言うから、一時間以内と制限時間があってもひとりで買い物できると思っていたのに。虎之助ったらどこにでもくっついてきて、私が手にしたもの全部にいちいち文句をつけてくるんだからたまったもんじゃない。

男の人って、女の買い物は時間が掛かるから嫌いって人が多くない? まさしく浩輔がそんな感じで、一緒に買い物に来てもほとんどが別行動。それはそれでちょっと寂しかったりもしたけれど、虎之助は真逆。

『俺の好みはこっち』とか『この色は智乃には似合わない』とかまるで彼氏みたいにそばにいてアドバイスしてくるんだから、店員さんにまで『仲がいいですね』と笑われる始末。

でも虎之助が選んでくれたものが、意外と似合っちゃったりするもんだから反論もできなくて。



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