冷徹なカレは溺甘オオカミ
「~~ッ」



や、矢野さんめ……!!

印南くんと一緒に出かけたことを、他の人に『楽しかった』って話してたって。それをまさか本人に知られるって、なにこの羞恥プレイ! は、恥ずかしすぎる……!!



「わ、わたし、先行きますね」



早口でそうまくしたてたわたしは、男性陣の横をすり抜けてオフィスに向かおうとした。

けれどもちょうど印南くんの真横を通り過ぎる直前、あせっていたのか何もない床でつまずいてしまって、ぐらりと身体が傾く。



「ひゃ……っ」



重力に逆らえず前のめりに倒れていくのを感じ、思わずぎゅっと目をつぶった。

だけどわたしの身体は、そのまま床にぶつかることはなくて。



「っぶね、」



そんなつぶやきとともに、突然胸の下あたりにまわされた誰かの腕。

力強いそれに抱きとめられ、わたしはなんとか固い床と対面せずに済んだ。



「大丈夫ですか? 柴咲さん」



とっさに顔をあげたわたしの視界いっぱいに映ったのは、いつもの無表情の中に少しだけ安堵の表情をにじませた、印南くんの整った顔で。

たった今自分に起こった一連の出来事の情報が、脳に伝達された瞬間──かーっとものすごい勢いで、頬に熱が集まった。
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