冷徹なカレは溺甘オオカミ
がくん、と一際大きく身体が揺れる。
わずかな眠りから覚醒したわたしは、ハッと窓の外に目を向けた。
見れば、自分が降りるべき場所のひとつ手前の駅に電車が到着したところで。寝過ごしたわけではないと知ったわたしは、胸をなで下ろす。
気が緩んだとたんもれ出たあくびは片手で隠し、わたしは小さく息をついた。
……昨夜は、なかなか眠れなかった。
原因なんて、ひとつしかない。昨日の昼間に会議室でした、印南くんとのキスのせいだ。
《俺はずっと、こうしたいと思ってました》
「──ッ、」
熱っぽい眼差しでささやく彼の言葉が不意によみがえって、わたしは穴があったら入りたい──むしろ穴がなくても自分で掘って埋まりたい衝動に駆られてしまう。
あのときのことを思い出すと、今でも顔が熱くなる。
意外とやわらかい印南くんのくちびるの感触とか、色っぽい目元とか、意地悪な言葉とか。
その全部がふとした瞬間頭の中に浮かんできて、どうにもわたしの思考を掻き乱すのだ。
結果、今日も仕事だというのに、がっつり寝不足という……。
熱い頬と未だぼんやりしている頭を冷ますため、両頬をぺちぺちと叩きながら深呼吸を繰り返した。
目の前に立つサラリーマンの革靴をなんとなしに見つめつつ、わたしは考える。