冷徹なカレは溺甘オオカミ
「しかしまあ、コイツが考えなしのアホで助かりましたね」



ネクタイを緩めながら彼が剣呑な視線を向けた男は、印南くんの下でさっきからぴくりとも動かない。

なんだか若干、こわい考えが頭をかすめてしまった。



「……えっと、その人、生きてる?」

「生きてますよ。いっそこのまま腕の骨折って息の根も止めてやりたいところですけど」

「……やめたげて……」



床に座り込んだままわたしがつぶやいたそのとき、どこからかパトカーのサイレンが聞こえてきた。

見ると数台のパトカーが、マンションの前で停車したところで。

ほどなくして何人かの警察官が、わたしたちのいる2階の廊下へと駆けつけた。



「あなたが、通報してくださった柴咲さんですか?」

「は、はい」



ひとりの警察官に手を引かれて立ち上がりながら、わたしはうなずく。

「で、」とそれからその人は、なんだか呆気に取られているような顔で印南くんの方へと目を向けた。



「そちらの状況は?」



別の警察官にのびたままの男を引き渡した印南くんが、やはりここでもいつもの無表情で答える。



「とりあえず、普通に銃刀法違反と傷害未遂ですね。あと、器物損壊?」



言いながら、拾いあげた自分のバッグを指さす。

一瞬驚いた表情をした警察官は、すぐに険しい顔になって「連行しろ」と部下らしき人に指示を出した。
< 221 / 262 >

この作品をシェア

pagetop