冷徹なカレは溺甘オオカミ
「こわかったでしょう。あの男のことは、こちらに任せてください」

「は、はい……」



わたしよりも、少し年上なくらいだろうか。凛々しい警察官の力強い言葉に、じわりと視界がにじむ。

そんなわたしの左手を、印南くんがやさしく握りしめた。

驚きながらも、あたたかいその体温にまたいっそう涙腺が緩みかけて、ぐっとたえる。



「お疲れのところ申し訳ないのですが、あなたがたには一度署の方に来ていただいて、お話をうかがわなければなりません」

「あ……は、い」

「ええっと、ところであなたは……」



言いよどんで、警察官が目を向けたのは印南くんだ。

何の迷いもなく、彼は答えた。



「彼女の恋人です」

「ッ、」



息を詰めてとっさに印南くんを見上げるけれど、彼はつないだ手に力を込めただけ。

納得したようにうなずいた警察官は部下らしき人に呼ばれて、そのままわたしたちのそばを離れた。



「な、なんで……」



困惑するわたしの言いたいことは、わかっているはずなのに。

印南くんは決してわたしの手を離すことなく、やわらかく微笑みながらこちらを見下ろす。



「柴咲さん、よくがんばりました」

「……ッ、」



伸ばされた印南くんの左手が、ぽん、と軽くわたしの頭を叩いた。

やさしい彼の言葉に、胸が熱くなる。


言いたいことは、いろいろあるはずだった。

……でも、これで、終わったんだ。

もう、ひとりで道を歩きながらびくびくしなくても、いいんだ。


一瞬だけ、頭によぎった鈴音さんの笑顔。

けれどもわたしは、その手に引かれるまま印南くんの胸に身体を寄せて。

本当に、ここ数日間の恐怖がようやく終わりを迎えたのだと。わたしはまるで子どものように、彼の腕の中で涙を流したのだった。
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