冷徹なカレは溺甘オオカミ
「ふいー、さっぱり~~」
ひとり暮らし歴も10年以上になれば、家での独り言が多めになってしまうのは致し方ないと思う。
お風呂あがりのほかほかした身体にパジャマを着て、気の抜けた声を出しながら洗面所を出た。
3階建てマンションの、2階。建物はまあまあ古いけど特に不便なこともなく、大学卒業と同時に借りたこの1LDKに、丸6年以上ずっと暮らしている。
バスタオルで髪を乾かしながらリビングに行くと、テーブルの上のスマホがメールの受信を赤いランプで知らせていた。
気づいたとき、少しだけドキッとする。
スマホを持ち上げ、そのまま後ろのソファーに腰かけた。
メールアプリを開いてみれば、差出人の名前には【印南 大智】の文字がある。
こくりと唾を飲み込んで、おそるおそる画面をタップした。
【件名:時間外業務の件】
【本文】
お疲れさまです。
標題の件ですが、実行は今週金曜日、
通常業務終了後に柴咲さんのお宅で
よろしいでしょうか?
待ち合わせ場所や時間等の詳細は、
また追ってこちらから連絡させて
いただきます。
よろしくお願いします。
「…………」
『よろしくお願いします。』の『。(マル)』までキッチリ心の中で読み上げたところで、わたしはぼとりとスマホを床に落とした。
ひざの上に置いた両手が、わなわなと震えている。
「……っし、仕事中かーーーい!!」
なんだこれ!! あの男は仕事マシーンか!! これお互いプライベートなアドレスだよね??!
声に出してひとりツッコミをしたら若干冷静になったので、ラグの上に転がっているスマホを拾い上げた。
いまだ表示されている件のメール画面を見て、ため息を吐く。