自白……供述調書
 この話しから間中邦弘を割り出したのだが、木山悟が光が丘事件の犯人として杉並警察に逮捕、起訴されると、練馬署の捜査本部は解散になった。

 間中邦弘を重要参考人として任意の調べをしようかという矢先だった。

 この頃、間中邦弘の所在は掴めていなかった。

 間中は、働いていた新聞販売店をその年の正月に無断で辞めている。被害者の佐山芳子が光が丘に引越したのは、それより一ヶ月前の事だ。

 間違い無く、間中は佐山芳子の行方を探す為に店を無断で辞めたに違い無い。

 捜査員の誰もが上層部の弱腰に憤慨した。

「チョーバ(捜査本部)でヤマ(事件)を扱えねえなんてそんな馬鹿な話しがあるか!」

 刑事部屋に課長や管理官らがいるにも関わらず、大声を上げたのは、本間の先輩である佐藤刑事だった。

 一課以外の刑事達もこの事には皆、首を捻った。

 一旦は捜査を打ち切りにした間中の件であったが、杉並署で自白した木山が無実を訴え出した事で、空気が変わった。

 元より、練馬署では現場捜査員の誰もが木山の自供に首を傾げ、その信憑性に疑念を抱いていた。だから捜査員の中には、直ぐに間中の調べが再開されると思う者も少なくなかった。

 本間刑事もその一人だった。だが、そうはならなかった。しかし、本間は間中のその後を追う事にした。

 自分一人で動くのは大変な労力が居る。しかも大っぴらには動けない。

 更に困難な事に、間中の足取りが全く掴めないのだ。

 ぷっつり姿を消してしまった人間の聞き込みは容易では無い。

 本間は、働いていた新聞販売店に残されていた履歴書の写真と、マンションの防犯カメラに写し出された写真を引き延ばしてコピーした。

 二枚の写真を一組にし、本間は都内の繁華街にあるネットカフェやマンガ喫茶、サウナ、カプセルホテル等にそれを配り歩いた。

 大海の中で小石を拾うような確率かも知れないが、ひょっとしたらという事がある。

 地道にやるしか無いと思っていたら、そのひょっとしてが現実に起きたのだ。






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