自白……供述調書

「先輩、声が……」

「わりい、て、お前それどころじゃねえぞ」

「それどころじゃないって、いきなりそんな事言われても意味が判んないすよ」

「15年前、松本でカルト教団が水道水に毒物を流して住民を無差別に殺した事件があっただろ」

「俺、まだ中学生だったけど、覚えてますよ」

「あん時、県警の初動捜査のミスで、まるっきり無関係な人間をぱくっちまったんだ」

「確か、マスコミも最初はその人を犯人扱いにしてましたよね」

「おお、けどな、あん時は現場の捜査員の大半があの逮捕を疑問に思ってたんだ。たまたま被害に遭った女性の旦那で、事件の第一通報者ってえだけで容疑者にしちまったんだ。松本の事件の前に保険金殺人がやたら続いたもんだから、こいつもそうだ、みたいな決めつけしちまったんだな」

「それで、大声とどう関係があるんです？」

「まあ、最後迄聞け。
　当時、マスコミには一切漏れないよう箝口令がしかれたんだが、事件当時、県警本部長は温泉旅館で麻雀に現を抜かしてたんだ。しかも、県警発足以来の重大事件が起きたってえのに、連絡が入ってもそのまま翌日迄温泉三昧の麻雀三昧。おっとり刀で本部に来てやっと事件の重大さに気付いたんだ。
　慌てて捜査方針を立てたんだが、指示がばらばらで統制も何も取れたもんじゃねえ。地元の連中だけじゃなく他県からも応援に捜査員が来てる。ショカツとしちゃあ、てめえんとこでホシを上げなくちゃ格好がつかねえと焦って、無関係な第一通報者を容疑者にしちまい誤認逮捕という有様。
　その直接指揮をしてたのが、今の杉並署の署長。多分、一緒になって動いていたのはうちの署長あたり」

「マジっすか！それは判りましたけど、その時の誤認逮捕の責任って誰も取らなかったんすか？」

「県警本部の幹部全員不問。二年以内に皆、転勤になってるが、キャリアには一切傷が付いていない。何故か判るか？」

「勿体ぶらずに早く教えて下さいよ。」

「本部長の温泉の件を下の連中が庇い通したから、その礼じゃねえけど、本部長が下の連中を庇った。そん時の部下に……」