自白……供述調書
『今これを読んでみます……

”問い…蒲田の窃盗の件についてはどうか?”

”答え…詳しく覚えていない”

”問い…5月10日頃ではないか?”

”答え…被害届がその日になっているならば、そうだと思う”

”問い…この時は、何処から侵入した?”

”答え…窓かも知れない”

”問い…窓ではなく、扉を壊した記憶は無いか?”

”答え…そういうやり方で入った事もある”

”問い…ならば、この家に入ったのも窓では無く、何処かの扉を壊したかも知れないのでは?”

”答え…被害届がそうなっているのなら、そうかも知れない”

 この調書に基づく報告書にはこう書かれてます。

”被疑者は、その犯行件数の多さから、幾つかの事件と混同し記憶が曖昧な部分がみられた。
 この点は、複数の窃盗事件を犯した者の場合、多々あるケースであり、他の混同している事件との共通性からみて、供述の信憑性には何等問題が無いものと認む”

 次に、今回の調書作成時に関する報告書ですが、

”被疑者は、強盗殺人といった重大事件を犯してしまった事で、かなりの精神的動揺が見られ、その供述に一貫性の欠ける点がやや見受けられる。が、前後の窃盗事件等の現場状況と混同している部分があり、又、被疑者本人が先に提出した上申書の内容がほぼ状況証拠と照らし合わせて間違いないものなので、何等問題無いと思われる”

 まるで、同じ報告書を読んでるように感じるのは私だけでしょうか……』

 森山は録音したばかりのテープを止めた。

 午後の審議で木山に対し反対尋問をするのだが、その内容は、犯行手口からの矛盾点を突くという打ち合わせになっていた。しかし、午前中の検察側の尋問で、森山の気持ちは揺れていた。

 まさか検察側が最初から自白の信憑性に絞って来るとは思っていなかったからだ。

 この部分からいきなり突っ込んで来る予測を、森山はしていなかった。

 多少の予感はあったにしても、こういった形で執拗に攻めて来るとは思っていなかった。

 尋問の内容を変えるか……

 迷いは振り子のように大きく揺れた。




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