自白……供述調書
 昼の休憩時間、食事が終わって直ぐに、森山先生の面会があった。

 午後からは森山先生からの反対尋問だ。

 質問内容とかは、前日迄に打ち合わせが済んでいたから、最終チェックなのだろう。

 そう私は思っていた。それが、内容を大幅に変更すると森山先生が言い出したのだ。

「自白強要の件は、裁判の後半でひっくり返す予定だったんですが、午前中の検察の出方がいきなりそこに来たんで、裁判官の印象が強く残っているうちに、こっち側に持って来る必要があります」

 いきなりそう切り出した森山先生の隣で野間口先生がびっくりした顔をしていた。

「昨日の面会では、調書に書かれた犯行手口の質問でしたけど……」

「ええ。昨日、拘置所でお話ししたように、小さな矛盾点から一つ一つ潰して行って、木山さんの自白の信憑性を覆す、結果、自白は強要されたものだ、という流れにして行くつもりでした。しかし、逆に検察側が自白の正当性を印象付ける作戦で来ましたから、最初からそれは強要だったと結論付けてしまおうと。細部の矛盾点をその後に裏付けといった形で潰す方向で進んだ方が裁判官に与えるインパクトは大きいと思います」

 午後の開廷時間迄そんなに余裕は無かったから、何だか慌ただしい打ち合わせになった。

 私の不安げな様子を見て、野間口先生が大丈夫と励ましてくれたが、その野間口先生自身が森山先生に首を傾げていた。

 この時、私の頭の中では、

 果たしてこの若い弁護士に自分の運命を任せて良かったのだろうか……

 という思いが、黒く渦巻き始めていた。





< 137 / 210 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop