自白……供述調書
「ねえ、森山君いったいどういう事?」

「何がですか?」

「何がじゃないわよ。木山への質問内容を変えるって事。
 浅野先生とも協議して、こういう方針で行きましょうって決まった訳でしょ。それを事前に打ち合わせもせず、君の思い付きだけで変えるのはまずいでしょ」

「確かにそういう流れで行こうとは話し合いましたよ。けど、一度決めたからと言ってそれに縛られ過ぎても、実際に裁判は相手が居る。その出方で臨機応変に対応して行くのがベストでしょ」

「それにしたって、君一人の一存でそうするのはまずいわよ。私達は、チームなわけでしょ?」

「僕が浅野先生から任された裁判なんです。現場の空気を読んで、戦いを勝利に導くのは任された指揮官の役目です。僕は、この裁判の指揮官ですから」

 野間口妙子は、これ以上は何を言っても無駄だと思った。

 弁護方針の方向転換は別に悪い事では無い。

 森山の言う通り、裁判は検察という相手が居る。加えて、その戦いをじっと見つめ続ける裁判官が居る。

 その場の状況に応じて尋問の内容を変えたり、増やしたりする事は、弁護士として当然の職務である。

 依頼人の不利益を防ぐのが弁護士の役目である事を考えれば、森山の行動は間違っていない。

 野間口妙子が危惧したのは、検察の出方に慌てて対応してしまう事で、向こうのペースに乗せられてしまうといった点であった。

 それと、森山の経験不足から来る視野の狭さが、大事な局面で依頼人の不利益を助長してしまう恐れもある。

 午前中の森山の少し浮足立つような姿を間近で目にしたせいもあり、野間口妙子の気持ちに微妙なズレが生じ始めていた。





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