自白……供述調書
 予定の時間よりも少しばかり早く、電話の相手と落ち合った。

 なるべく客の少なさそうな喫茶店を選んで入り早速ブツを渡す。

「忙しいとこ、本当に済まなかったな」

「水臭い事は抜きにしようよ。このブツかい?」

 阿久根がポケットから拳大に小さくしたビニール袋を差し出すと、

「アクさん、ちょっとばかし臭わねえか?」

「俺も、ポケットに入れて失敗したと思ってるよ。此処では開けない方がいい」

「やたらイカ臭えぜ」

「そのものズバリ、当たりだ」

 男は、受け取ったビニール袋を手にしていた黒い鞄に入れながら苦笑いを浮かべた。

「せっかくの珈琲に臭いが移っちまう前に飲んじまうか」

「明日には結果は出るのかい?」

「急ぎだったら今夜中に結果出しとくけど」

「ありがたい。このデータと、一致するかを調べて欲しいんだ」

 阿久根が背広の胸ポケットから出したのは、光が丘のマンションから採取した被害者以外のDNAデータであった。

「健三さん、俺もそろそろ署に戻らなきゃならない。落ち着いたらゆっくりやろうぜ」

「そん時はアクさんの奢りだかんな」

「判ってる。退職金前借りしてでも御馳走するよ」

「結果出たら、ケータイに連絡すればいいのかい?」

「メールで送ってくれたら助かる」

「メールかあ、どうも苦手なんだよなあ。まどろっこしくてよ。さて、ほんじゃ俺はこの臭えブツと御対面しに戻るか」

 珈琲を飲み干す間もなく、二人は別れた。

 署に戻った阿久根は、ふと自分の机に違和感を感じた。

 何処が、といった具体的な感覚では無い。

 何かが何時もとは違っている。

 そう言えば……

 阿久根は本間の話しを思い出していた。




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