自白……供述調書
 阿久根の住まいは埼玉県にある。

 十年程前に家を買い、現在は妻の芙美子と二人で住んでいる。

 娘と息子はそれぞれ結婚し、独立した事から、長年住んでいた都内の家を売り払い、今の場所に移り住んだ。

 土地が幾分広く、昔からやってみたかった家庭菜園をこれで出来ると喜んでいた阿久根だったが、未だに胡瓜一本も植えていない。

 野菜の種をホームセンターから買っては来るのだが、物置の肥やしにしたままだ。

「定年になったら幾らでも出来るじゃない」

 と、おっとり屋の妻が何時も笑うが、その度に今度の事件が解決すれば始めてみるかと考える。

 結局は考えるだけで、庭の手入れすら妻に任せ切りだ。

 芙美子の言う通り、定年迄は出来そうにないかも知れないな……

 妻を相手の晩酌も、ビールがなくなりそろそろ床に入ろうかと思っていたら、ケータイにメールが入った。

〔依頼の件。Aとは一致せず。Bの2と一致。〕

 Bの2?Aじゃないのか……

 阿久根は直ぐにメールの返信をしようとしたが、気持ちが先走り過ぎて打ち間違えた。

 直すのももどかしく、発信ボタンを押した。





< 145 / 210 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop