自白……供述調書
その男……
 昨夜は久し振りにベッドで寝れた。

 この一年余り、まともに睡眠を取っていない。公園や、ビルの軒下で一夜を明かしたりなどは、珍しくなくなっていた。

 週に一、二度、行きつけのビデオボックスに行くのがたまの贅沢になって来ている。

 去年の夏迄は、日払いの仕事も苦労無く探せたが、秋を過ぎた辺りから仕事が激減した。

 住み込みの仕事でもあれば良いのだが、一つの求人に何十人も応募するから、何の資格も無い人間や、身許の定かでは無い人間は真っ先に募集対象から外される。

 日給三千円ぽっちのヤミ金のプラカード持ちですら、滅多にありつけない。

 求人情報誌に掲載されている募集の多くが、身許の確かな学生や若い人間を対象にしたアルバイトばかり。

 新聞配達員の募集に応募しようにも、集金の金を持ち逃げした人間では何処も雇ってくれる訳が無い。何処かの販売店に面接に行った途端、警察に通報され、御用になってしまう。

 最近は、仕事を探す気力も失せ始めて来た。だから、このところはまともな仕事は殆どしていない。

 昨日もマンガ喫茶のパソコンで見付けた怪しいバイト募集を見て、その仕事をした。

 僅か二、三時間で二万円。

 偽造免許証でケータイ電話を買う仕事だったが、これが犯罪なんだという意識は既に麻痺していた。

 怪しまれればその場で詐欺の現行犯になるが、二、三時間で二万もの金が手に入る。

 毎日そういう仕事がある訳では無いが、二万は大きい。

 三週間振りの寿司を回転寿司で腹一杯詰め込み、一泊五千円のビジネスホテルに泊まった。

 安眠出来る事が、こんなにも幸せな事なのだと実感したが、こうして朝を迎えれば、再び憂鬱な気持ちに戻る。

 今日はどうやって過ごそうか……

 そうだ、あそこへ行ってみようか……

 間中邦彦の姿が地下鉄の構内へと消えた。




< 147 / 210 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop