自白……供述調書
 何ヶ月振りかで訪れたその場所は、何も変わっていなかった。

 高層住宅が何棟も建ち並び、整然と造られた街。

 大きな公園。

 その街並をぐるりと取り囲むように、古くからの民家が不規則に並んでいる。

 整然と造られた高層住宅街と比べると、昔からの街並は、道も細くくねっている。

 時折、ぽつんぽつんと真新しいアパートやワンルームマンションが顔を覗かせる。

 一面灰色の建物が見えた。

 あの日以来だ。

 変わっていない。

 いや、そうでは無い。

 彼女が居なくなってしまった今、その建物はただの器でしかない。

 あの建物を見ても、何の喜びも感じない。

 前に来た時は、その灰色の壁が遠目に飛び込んで来た瞬間、心が踊る位に身体が熱を帯びたものだ。

 マンションの前を通る。

 彼女の自転車があったマンションの駐輪場には、もうその自転車が無い。

 裏側に回ってみる。

 ベランダから彼女が居た部屋を見た。

 以前あった淡いブルーのカーテンは既に無く、空き部屋だと判る。

 彼女が毎日歩いていた道をなぞってみる。

 少しでも、僅かでも、彼女の残り香を感じたかった。

 コンビニ迄の道……

 駅迄の道……

 週末によく通っていた珈琲屋への道……

 何一つ、彼女の面影は無かった。

 所々で立ち止まっていると、たまにすれ違う歩行者が妙な顔をして見つめて行く。

 その歩行者達が目にした男は、道に立ち止まっては呻くように泣いていた。





< 148 / 210 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop