自白……供述調書
 一時間後と森山は伝えたが、実際にはあらかた仕事は段落がついていた。

 敢えて間を取りたかったのである。

 果たしてこのまま自分一人で、練馬署の刑事と会って良いものかという迷いも若干あった。

 暫く思案していたが、自分で結論が出せず、一言浅野の指示を仰ごうと思い、電話を掛けた。

 二度掛けたが、二度とも繋がらなかった。

 そろそろ阿久根が来る時間だと思っていたところ、事務所のドアが開いた。

「あら、森山君まだ残っていたの?」

 野間口妙子だった。

「ええ」

「そっかぁ、羽村さんか誰か事務の人が残ってくれてたら良かったんだけどなぁ……。ねえ、森山君はまだ残るの?」

「はい、もうすぐ人と会うんで……」

「そう……うん判った。仕方無い、自分でやるか」

「帰ったんじゃ無かったんですか?」

「そうなんだけど、明日、朝一の裁判で必要な書類が出来ちゃったの。大丈夫、来客の邪魔はしないわ。直ぐ終わらせて帰るから」

 そう言って野間口妙子は、自分の机に座りパソコンの電源を入れた。

 時計を見る。そろそろだ。

 事務所ではなく場所を移すかとも考えたが、話しの内容が木山の事件に関する事なのだから、やはり外ではまずい。

 浅野にもう一度電話を掛けた。

 やはり繋がらない。

 人と会っているのだろか。それとも移動中か。

 ものの十分とせず、野間口妙子は書類を作り終わったようだ。

 プリンターから吐き出される書類を確認しながら、彼女はおもむろに煙草を吸い始めた。

「野間口さんて、煙草吸うんですか?」

「あっ、見られちゃったか。家とかで一人だけの時はね。事務所じゃ滅多に吸わないだけどね、ここ全面禁煙だし。森山君が居たの一瞬忘れてた」

 少しバツ悪そうに照れ笑いを浮かべる野間口妙子の姿が、何処か新鮮だった。

「ところで、来客って?」

「刑事です」

 その場の雰囲気で、森山は思わず答えてしまった。そして、電話の件も話していた。


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