自白……供述調書
「私が此処でお話しする内容のほんの一言であっても、裁判に於ける弁論や検察側への反論には、一切使わないで頂きたいのです。勿論、我々警察がこの事件で新たな動きをした場合はその限りではありません」

「おっしゃる意味が良く判らないのですが……」

 問い返した森山に向き直り、

「今日、私がこちらへ来た事は、あくまでも私人としての行動からです。誤解の無いようにご説明しますが、私人と申しましても、一警察官としての立場でのものです。現段階では警察総意の元では無いという事なんです」

「まあ、何と無く判りましたが……」

「私は、事件発生当初、捜査の現場指揮を取っておりました。我々は、初動捜査の段階で、あの事件を単純な物盗りの犯行ではなく、別な視点から犯人を割り出そうとしました」

「怨恨、或はストーカーの、という意味ですね?」

「そこはご想像にお任せ致します。とにかく、捜査本部では、ある程度捜査対象を絞っていたんです」

「やっぱり、容疑者は他に居たんですね?」

 身を乗り出す森山に、阿久根は笑みを浮かべ、

「どんな事件でも、初動捜査の段階ではある程度容疑者を絞り出してるもんなんです。浮かび上がった容疑者達が、実際の犯人かどうかは、その後の捜査次第なんです。あの事件も例外ではありません」

 と言って、軽くはぐらかした。

「木山悟を自供させた杉並署にしても、まるっきり当ても無く木山を追い込んだ訳では無いと思います。ただ……」

 と、そこで阿久根の言葉は一旦途切れた。

 次の言葉をじっと待っている森山と野間口妙子は、まだかまだかとじりじりし始めていた。





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