自白……供述調書
 阿久根は、そのまま署には戻らず、直帰する事にした。

 家に帰るには、池袋で乗り換えなければならない。一旦、有楽町駅を目指そうとしたが、思い止まり、ケータイのボタンを押した。

 その番号は、本間刑事のものだった。

「よお、キソウ(機動捜査隊)のメシはうまいかい?」

(チョーさん、どうしたんすかこんな時間に)

「別に、どうって用事じゃないんだが、例の件、一言礼を言っときたかったんだ。鑑定、遺留物と一致したよ」

(ホントっすか!いよいよっすね。礼は間中を挙げた時にでも聞きます)

「そうだな、まだまだ先は長い。それと、本間チャンに謝らなきゃと思ってな」

(何をです?)

「今回の移動……済まなかった」

(やめて下さいよ。キソウに移動ならエリートコースじゃないですか。ほら、前にチョーさんも言ってましたでしょ。現場の場数踏むんだったら、キソウに行った方がいいぞって)

「済まん、ありがとう……」

(定年間近になって鬼のアクさんがどうしたんすか。こっちこそ、いろいろお世話になりながら……。とにかく、奴の件、宜しく頼みます)

「大丈夫だ。直、奴のワッパ姿をニュースの一面に載せてやるよ」

(奴の隣にチョーさんの姿がデカデカと……そん時は、いい格好でいて下さいよ。定年前の最後の晴れ姿なんすから。じゃあ吉報、待ってます)

「おう、取って置きの一張羅を箪笥から引っ張り出してやるよ」

 電話を切る阿久根の顔が、思わず綻んでいた。

 本来なら、その役目はお前さんだったのになあ……

 そんな事を思いながら、ゆっくりと数寄屋橋の交差点に足を向けた。




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