自白……供述調書
「だから、俺はただ頼まれただけなんだってばぁ!」

 手錠こそ掛けられていないが、前後左右を刑事に挟まれて若い男が連行されて来た。

 刑事部屋全体に、男の声が響く。

「放してくれよ。俺は何も悪い事なんてしてないんだから!」

「だからそれをちゃんと調べるんだろう。何も関係無いって判れば直ぐに帰れるんだから、そんなに騒ぐな。先ずは落ち着け」

「タモっちゃん、帰り間際に大変だな」

 三課の若林係長に阿久根が声を掛けた。

「前から追っ掛けてた窃盗グループの一味なんですよ」

「マエ(前科)がある奴かい?」

「いえ、真っさらです。二課(詐欺等を扱う部署)と合同で追っ掛けたヤマがありましたよね」

「偽造免許証を使って携帯電話買いまくってたやつか?」

「ええ。その時に使った偽造免許証で、うちの管内でロレックスを質入れしてたんです」

「盗品?」

「はい。シリアルNoで確認済みです」

「叩けば幾らでも出て来そうな奴だな」

「がっちり搾ってやりますよ。ところで、アクさんはサービス残業ですか?」

 阿久根はこのところ、光が丘事件の捜査資料の見直しに、一日の殆どを費やしていた。

「まあ、そんなとこだ」

「余り、おおっぴらにやんない方がいいですよ。このところ、アクさんを見る青瓢箪の目付きが良くないですから」

 若林係長は、阿久根が間中邦彦を追っているのを薄々感づいていた。

「脳無しの青瓢箪に、アクさんが飛ばされるとこ、見たくないですから」

「うん。まあ、何か言って来たら適当にごまかすさ。心配してくれてありがとうな……」

「もし、一人で手に余るようでしたら、遠慮せず言って下さい。何時でも力になります」

「ああ、そん時は頼む」

 若林にしても、光が丘の事件の際、捜査本部の一員として、一課の応援に回っていたから、今回の上層部の決定には納得していない。

 それに、阿久根の両腕となって動いていた本間と佐藤が移動させられた件にも、大いに憤慨していた。




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