自白……供述調書
 阿久根が本間に間中の件を伝えると、声を失ったかのように黙り込んでしまった。

 阿久根が何度も、どうした?と聞いたが、それでも無言のままだった。

 時折妙な雑音が入る。

 電波が悪いのか?と思い、携帯電話を強く耳に押し当てた。

 微かに聞き取れた音は、雑音ではなく、本間の啜り泣く声であった。

 啜り泣くばかりで一言も言葉を発しない本間に、

「晴れ姿でニュースに映るのは、定年前のロートルじゃなく、お前さんだ。本間チャン……」

 と言って電話を切った。

 これで、数日中に間中逮捕の知らせが入る。

 この時、阿久根の心境は、光が丘の犯人が間中であろうが、或は木山であろうがどうでもいいという思いになっていた。

 事件の真相究明。

 この一点だけが阿久根の意識を支配していた。

 だから、間中逮捕の糸口が見付かった今も、捜査資料の洗い直しを止める気持ちは無かった。

 事件当日の防犯ビデオを調べ直すと、次に阿久根がやった事は、被害者の交遊関係の洗い直しであった。

 更には、事件当時のマンション住人全員の洗い直しと、これ迄以上に入念に調べ直したのである。

 若林は、阿久根以上にまだかまだかと間中逮捕の一報をじりじりする思いで待ち望んでいたある日、阿久根はある偶然に気が付いた。

 しかし、その偶然を事件と結び付ける根拠は一つも無い。だが、引っ掛かり方に妙な胸騒ぎがした。

 世の中で起こるあらゆる偶然は、全て必然から生まれ出たものであり、決して偶発的に何かが起こる事は無い……

 何の本でいつ頃読んだかは記憶に定かでは無いが、ふとこの一文を思い出した。

 こいつを洗うか……

 阿久根の思考は、一歩前進した。






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