自白……供述調書
木山悟の真実
 せっかく罫線用紙を買ったのに、いったい何から書いていいのか、机に向かったまま、なかなかペンが進まない。

 あの日の事をどう説明したら良いのだろう。

 真実というものが、見る者の捉え方によって、歪曲されてしまう事を私は知っている。

 時には、その真実を伝える人間によって見方を変えられてしまう事もある。

 私が、私自身の真実を幾ら声高に叫んでも、その言葉を信じて貰えない。

 同じ事を私以外の者が叫べば、それは真実と受け止められる。

 そんな場面を何度も経験して来た。

 だから今度もきっと……

 とは思っているが、今、こうして伝えようとしている。

 しかし、書けない。

 何行か書いてはそこでペンが止まり、用紙を丸めてはごみ箱に投げ入れる。

 この繰り返しを続けていると、自分で何を訴えたいかが判らなくなって来る。

 自分の真実って何なんだ?

 浮かび上がるあの光景を私はどう伝えたらいいのだろう……

 そのままを伝えたものが、真実として受け入れられるであろうか……

 私のペンは、まだ走り出さない……






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