自白……供述調書
「ご、ごめんなさい、本当にすいません……」

「いいわよ。誰だって荒れちゃう事はあるから」

「ホント、ごめんなさい」

「もういいよ。心配しなくても君を強姦罪では訴えないから」

「僕、襲ったりしたんですか?」

「未遂……」

「……」

「嘘。冗談よ。君とは寝てないって言ったでしょ。私のマンションの方が近かったから、酔い潰れた君を運んで上げただけ。ほら、食欲が無くても少しは食べるのよ。弁護士は肉体勝負なんだから」

「はい……」

「ねえ、昨日の事、何処迄覚えてるの?」

「カラオケ行ったところ迄は薄らと……」

「そう、じゃあ思い出さないで」

「何か失礼な事、言っちゃいましたか?」

「少なくとも私には言ってない。それより、これからの事」

「木山の?」

「当面それが一番肝心な事でしょ?」

「でもその件は浅野先生が……」

「あのね、何でも他人の言う事を鵜呑みにしてたら、弁護士やってらんないわよ。元はといえば君が掘り出した事件なんだから、その本人が放り出してどうするの。よぉく夕べの話しを思い出しなさい。
 浅野先生はああ言ってるけど、君は君で今迄通りやれる事があるでしょう」

「僕がやれる事、ですか?」

「そうよ。君だって夕べ私にその事で散々絡んだんだから。しっかり思い出して頑張りなさい」

「野間口さん、何だか僕のおふくろみたいな言い方だ」

「ありがたいお言葉を賜り感謝、する訳無いでしょ。独身女性にその台詞使うと、いろいろ誤解招くから、気を付けた方が良いわよ。それより、遅刻するから急いで」

 酔った勢いで自分は何を話したんだろう。

 その事ばかりが森山の頭を埋め尽くした。

「私、あっちで着替えるから、ドア開けないでよ」

 そう言って、居間と玄関を仕切る扉の向こうに消えた野間口妙子に、ほんの少しだけ女を意識した森山だった。






< 186 / 210 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop