自白……供述調書
 延期されていた木山の公判が後十日程に迫った日の午後、木山から郵便小包が森山宛てに届いた。

 中を開けると、罫線用紙があり、神経質そうな細かい文字がびっしりと埋め尽くされていた。

 それは、告白文であった。

 時間を掛けて読み終えた森山は、その告白文と、水戸へ行って書き留めた吉田の話しとを照らし合わせてみた。

 やはりそうなのか……

 木山悟が初犯で入所して間もない時、吉田春雄は分類課の職員として、新入受刑者の分類審査を担当していた。

 どの刑務所に於いても、新しく入って来た受刑者達は、この分類審査を受ける。

 審査の内容は、学力、適性、性格、協調性等、多岐に渡っている。簡単な心理学テストも行う。

 木山の初犯時の心理学テストで興味深い結果が表れた。

 簡単なロールシャッハ試験(様々な図形を見て何を想像したかで心理状態が判る)を行い、民間の専門機関に内容を送ったところ、再度の試験を行うようにとの指示があった。

 指示内容は100以上もの質問事項が記されたテストで、簡単な一文から想像した文章を書くというものであった。

 数日後、検査結果が出た。

 多重人格症と、脅迫性による一時的記憶喪失症。

 専門機関から送られて来た報告書の末尾に、

『極度の緊張や圧迫を長時間体験すると、その事から現実逃避しようとする為に、様々な虚言を述べ、何時しかそれが真実であるかの如く自身に思い込む傾向が強く見られる。

 圧迫の度合いが更に強くなると、一時的な記憶喪失になる事もあり、特に自分にとって不利益と思われる事となると、その傾向が表れ易くなる。

 又、自己顕示欲がつよく、どういった形であれ、他人から注目されたいといった願望から、他人の気を引こうとする行動に出る。

 こういった人物にとっては、犯罪そのものが、自己主張や顕示欲の発露の手段になる場合が多く、累犯者(数多い犯罪を重ねる者)になればなる程、その傾向が顕著である。』

 何百何千人と受刑者を目にしている吉田からすれば、この程度の者はそう珍しくはない。

 報告書を書く程に印象的だったのは、個別面接での彼の話しであった。

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