自白……供述調書
 吉田春雄が担当した個別面接では、所内でどんな作業を希望するのかとか、出所後はどうするのかといった内容の話しを聞く。

 それによって本人の更正に向けての意欲を知る訳だが、木山はその時に、自分は父親を殺したと言ったのである。

 尋常な告白ではない。

 しかも、涙を流しながら、切々と訴えた。

「自分の父親をこの手で殺したんです……」

 吉田は詳しく聞き、その事を上司に伝えた。

 刑務所側は、直ぐに関係筋に問い合わせた。

 結果は木山の嘘であった。

 彼の父親は木山が幼い時に家を出、残された母親は木山を養護施設に預け、そのまま消息を絶っている。

 その事を告げ問い質すと、成人して再会した時に殺したと言う。

 もう一度調べたが、そんな事実は無かった。

 丁度その時期に心理テストの結果報告が届き、刑務所側は成る程と納得をした。

 この為、通常は分類審査の一ヶ月後には、それぞれが刑務所内の各作業割り当てに配属されるのだが、木山はその後半年間、独居内での作業をさせられていた。

 その間、数回に渡り吉田は木山と面接し、本人の精神状態を確認する為に、様々な話しをした。

 それらを一枚の報告書にしたのである。

 報告書の一行目に、

『虚言癖が強く、時には自分が言った虚言の方が真実と思い込む。』

 と書かれ、二行目には、

『要注意、要監視の必要あり。』

 とあった。

「後にも先にも、自分の父親を殺したなんて嘘を言った受刑者は初めてでした。そのせいで今でも良く覚えてます。今回の事件で大きく新聞でも取り上げられたので、尚更思い出しました。ただどうなんでしょうか、本人は無罪を主張してますけども……」

 濁した言葉の続きは容易に想像出来た。

 そして届いた木山の告白文書。




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