自白……供述調書
 精神病院での鑑定留置は、概ね一ヶ月から長くて三ヶ月を費やす。

 場合によっては、一度だけでは終わらず、間を開けて再度行う場合もある。

 鑑定留置は、弁護側が手にする最後の宝刀とも言うべきもので、極刑を言い渡される可能性の事件では、特にこの手段を弁護側は使う。

 鑑定結果次第では、責任能力無しとされ、罪一等免除どころか、無罪まで有り得るからだ。

 だが近年の裁判では、傾向として鑑定結果は検察有利となり、多くの鑑定結果が、

『事件当時の精神状態は責任能力有り』

 となって来ている。

 理由は被害者感情である。

 気が変になっていたから事の善悪が判らなかった。だから無罪といった判決では、残された被害者家族は堪ったものではない。

 それと、犯行当時の心理状態を事件から何ヶ月以上も過ぎた後に鑑定し、診断するという事に若干の無理がある。

 人間の精神状態として、殺人やそれに匹敵するような凶悪犯罪を犯す時というのは、少なからず異常な精神状態になっている。

 何も考えずにそういった犯行を犯してしまう人間は思いの外少ないものだ。

 アルコールや薬物で、事の善悪や自分の行動そのものの記憶が無い者ならば、その対象になりうるが。

 木山悟の場合は、過去に精神分裂との診断をされた記録がある為、その辺りでは有利になるであろう。

 しかし、森山がこの裁判に求めているものは、鑑定結果による減刑や無罪では無かった。

 彼の心は、真実を知りたい一心で埋まっていたのだ。




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