自白……供述調書
 見慣れた光景が目の前に広がっている。少しばかり昔と違うのは、取調べの刑事達の指からペン蛸が消え、机の上にある筈の罫線用紙の代わりにノートパソコンが置かれている事だ。

 担当刑事が、慣れた手つきでキーボードを操作して行く。

 何時も通り、自分の生年月日、本籍地や、生まれてから現在に至る迄の経緯を語り、それを堅苦しい文章に刑事が直す。

 机の上に置かれた銀色の灰皿は、所々凹み、押し付けられた煙草の灰で黒くなっている。窓の無い狭い取調べ室の中で、既に何時間かの時間が過ぎていた。

「おう、煙草吸ってもいいんだぞ」

 刑事が気を使ってマイルドセブンと百円ライターをこっちへ寄越す。

 もとより遠慮するつもりなど無い。

 留置場での生活の中で、一番気が落ち着く場所は、意外と取り調べ室だ。

 煙草が吸えるというのが何よりで、たまに担当刑事がインスタントコーヒーや茶菓子を出してくれる事もある。

 映画やテレビの刑事ドラマでは、取調べ室は被疑者達にとっては恐ろしい所のように描かれているが、実際には多くの被疑者からみると、取調べがある方が嬉しいものだ。

 暴力団関係者など、わざわざ留置場の中で騒いでは、調べに出せと喚く者も少なくない。

 何本目かの煙草に火を点ける。数カ月後には煙草ともしばしのお別れだ。

「……で、お前がその家に空き巣に入ろうと思ったのは、たまたまその家の前を通った時ってえ事でいいんだな?」

「ええ…」

 実際の所はそんなにはっきりとした確証は自分でも持っていなかったように思う。

 だが、それをここでグダグダ話したところで、かえって刑事の心証が悪くなるばかりだから、頷くままに返事をした。

「それで、物色したのは?」

 その時の事を改めて思い返してみる。

 一時間程して出来上がった調書を刑事が最初から読み返し、署名を求めて来た。

 プリントアウトされた供述調書の末尾に自分の名前を書き、左手の人差し指で捺印する。

 全てが定められた儀式のようにして事が行われ、身柄は検察庁へと送られる。

「これ送ったら、余罪関係の調書を取るから、今日はこれで終いだ。さて、一服したら中に戻るか」

 慌てて煙草を一本取り出すと、刑事が火を点けてくれた。



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