自白……供述調書
 マムシは机の向かい側に腰を下ろした。

 直ぐに口を開く訳でも無く、あらぬ方向に視線をやりながら無言でいる。

 私は無言の圧力に、ただ身を硬くするばかりだった。

 警察での取調べを思い出してしまった。

 職員達の収容者達への暴力行為は、世間の者が思っている以上に、以前は割りと日常茶飯事で行われていた。

 ここ最近は名古屋刑務所での暴行致死事件が明るみになった為もあり、ぐっと減りはした。

「お前、何回目だ?」

 突然マムシが口を開いた。

 ビクッとした私を蔑むような眼差しでじっと見つめるマムシ。

 言葉の意味するところが判らなかった私がそれを聞き返そうとすると、

「刑務所は何回目かって聞いてるんだ」

「は、はい。四回、あ、いや今度で五回に……」

「タロウだな」

 タロウとは、刑務所に何度も入る人間に対する蔑称である。

「知ってるか木山。二回目以降五年以内での懲役累犯者の再犯率」

「……?」

「教えてやる。八割以上。つまり、お前みたいな奴の事だ。更にだ、犯罪が段々エスカレートして行く。
 初めはくだらないちんけな盗みで一、二年のヤマを踏んだ奴が、回数を重ねる毎に犯罪が凶悪化して行く。どうしてか判るか?
 懲役が楽だからだよ。お前ら刑務所を舐め過ぎてるからな。黙ってても三度の飯は喰わせて貰えるし、今じゃ毎日テレビも観れる。まあ、舐められる刑務官が増え過ぎたせいもあるけどな。
 いいか、犬でも仕込めば悪さはしなくなるもんなんだ。お前らタロウはそれ以下なんだよ」

 私は何も言葉を返せず、ただ無言でいるしか無かった。

「俺達はお前らの犯した罪に対してどうのこうのと言える立場じゃないから、その事に関しては何も言わん。ただ、一人間として言って置いてやる。刑務所での決まりも社会での法律も、守るという意味では同じなんだ」

 マムシはそれだけ言うと部屋を出て行った。




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