自白……供述調書
 マムシは一体私に何を言わんとしたのだろう。

 隣人との窓越しの不正交談を咎める為にしては、何時ものマムシらしくなくあっさりしている。

 暫くすると、マムシと入れ代わりに若い刑務官が入って来た。

「木山、転房だ」

「えっ?」

「私物とかは、衛生夫(受刑者)がやってくれてるから、そのまま新しい舎房に移るぞ」

 言われるままに私はその刑務官の後に従った。

 私が移った舎房は、残された古い舎房であった。

 新しく造られた高層の新舎と比べると、正に天国と地獄程に居住環境に差がある。

 旧舎と呼ばれる舎房は、昭和六年に建造された三階建ての建物で、中央から放射線状に舎房が並んでいる。廊下の天井は一番上の階迄吹き抜けになっていて、転落防止用の金網が誂えてある。下の階からも上の階の状況が確認出来るようにとの構造だ。

 八十年近く経つ建物だから、あちこち補修の跡がある。この旧舎も、いずれは新しくなるのだろう。

 私が移された房は、一階の二十一房であった。

 重い扉が音を立てて閉められた。

 入口側に窓の無い古い造りだから、舎房内からは廊下の様子など判らない。食事の出し入れは扉の下にある小さな食器口からだ。

 部屋の奥に便所がある造りは同じだが、便器の蓋を閉めるとそのまま椅子代わりになり、前にある洗面台の蓋を下ろすと机になる。

 窓の外には目隠しがされ、完全に外とは閉ざされた空間になる。

 陽の光りは一年を通して殆ど入らない。

 冬は寒く、夏は蒸し暑い劣悪な環境だ。それに新しい方の舎房と違い、部屋全体に異様な臭いが染み付いている。

 壁にもたれながら、私はこれから自分がどう処遇されるのだろうかという思いに不安を募らせていた。




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