自白……供述調書
 時間だけが無駄にある。

 狭い独居房に長く閉じ込められていると、人間の思考は余程精神的にタフに出来ていなければ、大概はネガティブな思考に走る。

 私の思考は、いわれもなき罪に問われ、裁かれる事への不安と恐怖をぐるぐる回っていた。

 自分は人など殺していない。

 どんなに声高に叫んでみても、私のような人間の声など聞き止めてはくれない……

 どうして自分はあの時、調書に署名捺印してしまったのだろう……

 そんな事ばかりを考えていた。

 相談に乗って貰うべき弁護士は、やる気の無い国選弁護士。

 国選弁護士の全てが、やる気の無い者とは限らない。

 中には、国から支払われる僅かな弁護士料を遥かにオーバーする位、自腹を切って活動してくれる者も居る。

 だが、そんな弁護士に出会える確率は、宝くじに当たるのと同じ位のものだ。

 入浴日以外の日に、三十分程の運動時間があるのだが、私はそれを拒むようになった。

 何をするにも億劫になってしまった。

 ひがな一日、狭い舎房でただぼうっとするばかり。

 食欲も失せ、自分でもはっきりと判る位に痩せ衰えて来た。

 暫くすると、私は食事をまったく受付なくなってしまった。少しでも口にすると、吐き気を催し、そのうち一切手を付けなくなってしまった。

 刑務所や拘置所では、拒食も取調べ懲罰の対象となる。

 何度も担当刑務官が食事をしろと注意して来たが、私の身体がそれを拒み続けた。否、私の精神がそれを拒絶し続けた。

 熟睡出来ない日が続き、昼間起きていても半分寝ているような状態になった。段々、現実と非現実の区別がつかなくなり始め、やたらと独り言を口にする。

 就寝時間になり、小さな常夜灯だけになると、昼間のうつらうつらしていた時とは違って、やたらと目が冴えて来た。染みだらけの天井をじっと見つめていると、枕元でガサガサという物音がした。

 音が少しずつ大きくなってくる。

 ガサガサ……

 ガサガサ……

 身を起こし、音の方に目をやる。

 私は悲鳴を上げた。





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